Seminar (Psychology)
研究ってなに?
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研究ってなに?



 1.「いままで誰も知らないことを明らかにしていく」のが研究

 2.「勉強」も大切

 3.「正確でわかりやすい文章」を書く練習もしよう






 1.「いままで誰も知らないことを明らかにしていく」のが研究


 「研究とは何か」という問いに対しては,いろいろな人がいろいろな説明をしています。そこに共通しているのは,「いままで誰も知らないことを明らかにしていく」ということかと思います。どこかの教科書や参考書に書いてある内容だけを原稿用紙に書いても,そこに何らかの「誰も知らなかったこと」が含まれていなければ,自分の「勉強」にはなっても,残念ながら,「研究」とはみなされないかもしれません(…というようなことも,いろいろな人たちが言っていると思います)。

 つまり,教科書や参考書などを読んで,そこに書いてある内容を覚えるだけではなく,いろいろな本を読んで,どの本にも書いていないこと(≒誰も知らないこと)を明らかにしていくのが「研究」なのです(たぶん)。

 では,具体的に,心理学にはどのような研究があるのでしょうか。あくまでも一例ですが,以下にちょっとだけ挙げてみます。

その1 日常生活の問題を,心理学の理論にあてはめてみる。
 「なんで授業中に私語をするんだ〜」と,ある教員が悩んでいたとします。そこで,「なんで私語をするんだろう」ということを学問的に考えるために,参考になりそうな心理学の研究を探してきます(規範意識や学生の社会性に関する研究など)。そして,これらの研究で使用されている理論を使って,日常生活での問題を心理学上の問題としてとらえ直してみます。既存の理論に上手くあてはめることが出来ない場合は,その一部を修正したり,新しい理論を考えてみたりします。
 このような研究を行うと,「その2」で挙げるような研究を行いやすくなる可能性がでてきます。得られた研究結果を基に,私語の発生を抑えるための具体的な方法を考えることが可能となるかもしれません。

その2 心理学の理論を,日常生活の問題に応用してみる。
 将来,学校の先生になることを考えていて,「どのようにすれば生徒をうまく指導できるのか」ということについて関心を持ったとします。このようなときに,リーダーシップや動機づけ,協同学習などの心理学の理論を応用してみます。例えば,これらの理論を基に,具体的な授業の手続きや教材を作成してみます。さらに,作成した授業や教材の効果についても,調査などによって実証的に検証したりします。

その3 理論的な問題点を見つけ,より優れた理論を構築してみる。
 心理学の論文Aと論文Bの間で,矛盾する理論や実験結果が報告されたとします。そのような時に,これらの矛盾を解決できるような理論を構築してみます。例えば,矛盾した結果が出た実験の具体的な手続きについて調べ,見落としている要因がないか等について検討したりします。




 2.「勉強」も大切

 さて,どのようにすれば,「いままで誰も知らないことを明らかにしていく」ことができるのでしょうか?

 まず必要となることは,ちょっと大げさに言うと,「これまでに,私たち人間は何を知っていて,何を知らないでいるのか」ということを把握することです。「私たち人間は何を知らないのか」ということを知るためには,「私たち人間は何を知っているのか」ということについて知ることが大切になってきます。

 こうやって見つけた「私たち人間が知らないこと」を,「明らか」にする(「知っていること」にする)ためには,さらに,いろいろと文献を読んだり,調査などを行っていくことが要求されます。この時に重要となってくるのが,「いままでの人たちは,どのようにして『知らないこと』を『知っていること』にしてきたのだろうか」ということを知ることです。ですので,研究を行うための方法(「研究法」といいます)について勉強していく(学んでいく)必要が出てきます。

 このように,「研究」をする上では,各自が選んだ研究テーマに関する様々な事柄について,がんばって「勉強」(学習)をすることも大切です。




 3.「正確でわかりやすい文章」を書く練習もしよう

 あなたが「明らかにしたこと」を,世の中の人に「知ってもらうこと」も重要です。そのためには,「自分しか知らないこと」を,他の人に対して,わかりやすく正確に説明しなければなりません。

 研究について書いた文章(以下「論文」と書きます)を,その読み手にとって分かりやすく書くことは,今までの授業等で書いてきた「レポート」などと比べると,とても大変な作業になるかも知れません。
 レポートの読み手は,多くの場合は,その授業を担当している教員だと思います。授業を担当している教員ですから,当然,レポートの課題についてもよく知っているはずです。このため,多少,不正確な点があったり,表現がわかりにくかったとしても,読み手(=教員)の方で「ここはちょっと間違っているな」とか,「たぶん,この部分は,こんなことがいいたかったのだろうな」などと,間違いを訂正したり,書き手(=あなた)の意図を推測したりして読むことが出来ます。

 しかし,論文の場合は,事情が異なってきます。繰り返しになりますが,「いままで誰も知らないこと」を明らかにしていくことが「研究」です。このため,たとえ教員であっても,そこに書かれている内容については,書き手であるあなたほどには,よく知らないかもしれません。特に,あなたの研究によって「明らかになったこと」が多ければ多いほど(ある意味,優れた研究であればあるほど),この可能性は高くなると考えられます。
 また,教員だけでなく,「将来どのゼミに入ろうかな」と考えている学生が読み手となる場合もでてくるかもしれません。
 そうすると,万が一,論文に間違いを書いてしまうと,読み手は気がつくことができず,間違った内容をそのまま「新たに明らかになった事実」として覚えてしまうかもしれません。また,わかりやすく書かないと,せっかく内容的に素晴らしいことを書いていたとしても,「たぶん,すごいことが書いてあると思うんですが,なにがなんだか,よくわかりません…」というように,あまり理解されないままになってしまう可能性もあります。

 このため,「正確でわかりやすい文章」の書き方を身につけていくことも,とても重要になってきます。