Compulsory Science No.82




「人間の体は微生物だらけ」
 


    The human body is estimated to contain 1014 cells, 10 % of which belong to the body proper. The remaining 90 % represent the population of organisms living in or the host.

 冒頭の文が示しているように、我々の体は微生物だらけです。腸の中に大腸菌が棲ん でいることは多くの人が知っていると思いますが、大腸菌を含めた微生物が人間の体の あらゆるところに棲んでいるのです。しかも、その数は、人間の細胞の数よりもはるか に多いのです。

 微生物は、我々人間が生まれた途端に移動してきます。母親の胎内、羊水に浮かんで いるときは、微生物は、いません。しかし、母親の胎内から生まれて自分で息をするよ うになってから、多くの微生物が乳児の体に棲むようになります。息をすることは、空 気中に漂っている多くの細菌を飲み込むことになります。また、私達の皮膚の小さい穴 は、微生物にとって大きな空洞に見えます。

 一旦、微生物がヒトの体の中に入ると、その快適さに満足します。つまり、暗くて、 温かくて、湿気に満ちていて、子孫を増やすのに快適な場所なのです。

 ヒトは、朝、昼、晩と食事をします。おやつを食べることもあります。朝サンドイッ チを食べたとしましょう。サンドイッチは、ヒトにとって栄養分ですが、微生物にとっ ても栄養分となります。口には、常時数百種類の細菌が棲んでいます。ヒトがサンドイ ッチを食べたとき、食べかすが少しでも口の中に残れば、細菌にとってご馳走をプレゼ ントすることになります。

 食べたものは、食道を通り、胃に行きます。ここは、胃酸が強いため、微生物にとっ ては居心地がいいところではありません。それから小腸に行きます。ここは、微生物に とってはやや居心地がいいところです。しかし、膵液、胆汁などの消化液が分泌される ため、微生物にとってあまり棲みやすいところではありません。最後に大腸に行きま す。ここは、微生物にとって居心地がとてもいいところです。微生物は大腸の中で大幅 に増殖します。大腸でヒトの便が形成されますが、便の3分の2は、微生物だと考えら れています。

 かつては、大腸の中で繁殖する微生物、大腸菌がヒトの健康を脅かすと考えられてい ました。食細胞の働きを発見し、ノーベル賞を受賞した科学者メチニコフは、大腸を切 除すれば、健康になるとさえ考えました。しかし、現在では、大腸に棲む大腸菌が外来 の毒性の微生物を排除し、ヒトの健康が保たれていると考えられています。



【参考文献】
Jeanette Farrell, “Invisible Allies: Microbes that shape our lives”, Farrar Straus Giroux, New York 2005





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