Compulsory Science No.78




「外科手術の発展 The development of Surgery」
 


  _病気になるのは、誰でも嫌ですが、病院に一度も行ったことがない人はいないでしょう。手術を受けたことがない人は、いるかもしれませんが、歯医者に行ったことがない人はいないでしょう。病院では、消毒することは、基本ですし、手術では、麻酔をすることが普通です。しかし、19世紀までは、医学の世界では、消毒の必要性も分からず、麻酔の方法も発見されていなかったのです。

_19世紀前半のロンドンの有名な外科医、Robert Listonは、脚の切断手術を2分以内で行うことを誇りにしていました。この頃までは、手術に伴う患者の痛みは、神が与えた試練であり、耐えるべきだとされていました。ですから、手術を早く終わらせる外科医は、優秀だとされたのです。

_ 麻酔は、1842年、アメリカの医者Crawford Longがエーテルを用いたのが最初だとされています。1846年、アメリカの歯科医William Thomas Green Mortonは、公開手術で患者の歯を抜いて、患者が悲鳴を上げなかったことを示しました。また少し前に、イギリスの化学者Humphry Davy が笑気とよばれる亜酸化窒素を発見しています。この後、クロロフォルムも使われるなど、麻酔が次第に手術で使われるようになりました。日本では、1804年に、華岡青洲が全身麻酔薬である通仙散をもちいて乳癌の手術に成功していましたが、世界に知られることはありませんでした。Crawaford Longが成功する前は、催眠術、アルコール、マリファナ、コカイン、モルヒネなどが密かに使われていたようです。

_ 消毒は、スコットランドの医者Joseph Listerにより、1867年に防腐法として、提唱されました。それまでは、外科手術をした後、必ずといっていいほど、化膿が起こり、多くの患者が死亡しました。アメリカの南北戦争では、62万人が戦死しましたが、それと同じくらいの数の人が病院で死亡したと言われています。Listerは、傷口の消毒、手術の部屋の消毒に石炭酸(フェノール)を使うことを提唱しました。それまでは、医者は、血にまみれたフロックコートを着て、ろくに手も洗わないで、ぼろきれで傷口の血を拭いていました。病院で感染が広がっていたのです。Listerの父親は、優れた顕微鏡を開発していましたので、目に見えない微生物が人間に害を及ぼすことが次第に考えられるようになりました。この頃、Louis Pasteurが、自然発生説を否定して、細菌学が誕生しました。1862年のことです。消毒は、麻酔に比べて、その原理が理解され、実施されるのには、だいぶん時間がかかりました。医者は、自分自身が病気の感染源であることを認めたくなかったのです。また、消毒は面倒で時間と手間がかかるものでしたから、古い医師には馴染みにくかったのです。

【参考文献】

“The story of Medicine from papyri to pacemakers” Judy Lindsay / The British Museum Press 2003
「医学をきずいた人びと」シャーウイン・B・ヌーランド/曽田能宗 河出書房、1991


「まぐまぐ(電子書店)」http://www.mag2.comに掲載
読者数 1500





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