Compulsory Science No.77




「ミイラになったブタ The case of Mummified Pigs」
 


  _面白い題でしょう。これは、生態学をテーマとした児童用の本です。対象は、9歳から12歳となっています。14話ありますが、本のタイトルとなっているこの話が私には興味深かったです。

_ミイラというとエジプトのミイラが有名ですね。とても特殊なものだというイメージがあります。この話は、なぜミイラができるのかをブタを使って調べたものです。ミイラにするには、腐らせないことが重要です。動物の死骸は、ほうっておけば、次第に腐っていき、姿かたちがなくなっていきます。分解されるのです。分解されなければ、地球上は、死骸の山で埋まってしまいます。これは、枯れた植物でも同じことです。

_死骸を分解するのは、分解者(decomposer)と呼ばれています。分解者は、細菌・菌類とされています。よく細菌と菌類は同じような意味で使われることがありますが、構造は、全く異なったものです。細菌は、原核生物(Prokaryote)であり、細胞の中に染色体を含む核がありません。染色体が保護されていません。細菌で有名なのは、大腸菌です。一方、菌類は、真核生物(Eukaryote)であり、細胞の中に核があります。大きな違いです。菌類は、カビ、キノコを含んでいます。アルコール発酵を行う酵母も菌類です。

_ところが、動物の死骸を観察していると、たくさんの節足動物が群がっていることが分かります。そこで、ブタの死骸を用意し、二つのグループに分けました。一つのグループは、目のあらい金網の中に入れ、もう一つのグループは、目が細かい金網の中に入れ、節足動物が通り抜けられないようにしました。自然発生説を調べたレディの実験(1627-1697)を思い出しますね。

_その結果、目のあらい金網に入れたブタの方には、522種類もの節足動物があつまり、そのうち、217種類がシデムシやコガネムシなどの甲虫類、108種類がハエの仲間だったのです。こちらのブタは、6日もすると、体がほとんどくずれてしまい、8日後には、皮膚の切れ端と軟骨と骨だけになりました。

_目の細かい金網に入れたブタは、5日たっても、体はそのままでした。そして、次第にしなびてきました。ゆっくりと乾いていき、3ヵ月後には、ミイラになったのです。  

_ミイラというと特殊な薬や包帯が必要であるように思われますが、この実験のように目の細かい金網でもできるのです。目の細かい金網は、細菌や菌類の胞子は通ることができます。しかし、充分に腐ることができませんでした。死骸が腐るには、節足動物の助けが必要だったのです。かれらが、死骸を細かくしたり、穴をあけたりすることで、細菌や菌類の活動を助けていたようです。  

_分解者は、細菌・菌類とされていますが、動物の死骸を分解するには、細菌・菌類だけでは、不十分であり、他の動物の助けが必要であることを、ミイラになったブタによって明らかになったのです。

【参考文献】
「ミイラになったブタ」スーザン・E・クインラン著、藤田千枝訳、さえら書房,1998年

「まぐまぐ(電子書店)」http://www.mag2.comに掲載
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