コムパルソリイ・サイエンスNo.29




「温熱療法(Hyperthermia )とガン(Cancer)」
 


 前号で、アポトーシス(Apoptosis)の話をしましたが、これに関連して注目を浴びているのが、温熱療法です。まだ、新聞などでは紹介されることは少ないようですが。

 温熱療法に関しては、古い歴史があるようです。ガン患者が風邪などの感染症で高熱を発したときにガンが消えてなくなることがあったことから考え出されたようです。この温度は、42、43℃付近です。この温度になるとアポトーシスが起こるのです。これ以上だと火傷などの細胞壊死、ネクローシス(Necrosis)が起こります。放射線治療と併用すると効果が上がるとのことです。このアポトーシスが起こるときに、p53遺伝子が働いているのでしょう。

 放射線は、腫瘍の特徴である酸素分圧が低いところで治療効果を上げにくいといった不利な点がありましたが、温熱療法は逆で、酸素分圧が低いところほど、治療効果を上げます。そこで、放射線と相補って治療効果を上げることになるのです。

 温熱処理をすると、熱ショックタンパク質(Heat shock protein)が出ることが知られています。これがアポトーシスに関連しているのです。このことが発見されたあとに、この熱ショックタンパク質は、熱のストレスだけでなく、pHの変化、放射線、紫外線などのさまざまなストレスでも作られることが分かってきました。

 腫瘍細胞は、正常細胞に比べて、温度感受性が高いので、効果があるのです。

 温熱療法の優れた点は、副作用がほとんどないことです。また、温熱療法は、MMC(マイトマイシンC)などの抗がん剤の効果を増強します。

 しかし、一度、治療を行うと、細胞自体が熱抵抗性となるので、効果が上がらなくなります。最低3日以上はあけないと効果が半減するそうです。

 治療に当たっては、電磁波を利用した機器が開発されています。サーモトロンという機会です。サーモは熱(Thermo)という意味です。

 日本人が、長寿なのは、温泉好きだからではないかと言われているぐらいです。



 
※「生物学辞典」八杉龍一ら/岩波書店 1996年

※「アポトーシスの科学」山田武・大山ハルミ/講談社 1994年


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