コムパルソリイ・サイエンスNo.28




「アポトーシス(Apoptosis)とガン(Cancer)」
 


 最近、「アポトーシス」という言葉を聞いたことがありませんか。新聞で、ずいぶん取りあげられるようになった用語です。これに関連して、p53遺伝子という言葉も使われています。つい最近9月15日の朝日新聞にもp53遺伝子は、ガン抑制遺伝子として紹介されていました。

 アポトーシス(Apoptosis)とは、プログラムされた細胞死とか細胞自殺などと言われています。1972年に提唱された新しい概念です。ギリシャ語から由来している言葉で、「花びらや木の葉が散る」という意味だそうです。

 生態系においても、分解者の存在がないと、地球上は、生物の死体で埋まってしまいます。我々の体も同じで、毎日、細胞分裂が行われながら、たくさんの細胞も死んでいっています。そうやって、体が維持されているわけです。発生するときも、同様にたくさんの細胞が死んでいきます。手の発生の場合も、最初は、棒状のものだったのが、こぶしのような塊になり、それが手の平のような形になります。やがて、水かきを持ったような手となり、その水かきの部分の細胞が死んで、指が形成されるのです。このようなプログラムされた細胞死が随所にあるのです。

 ガンの場合は、正常な細胞の増殖の調節が行われなくなり、異常な増殖を行います。その際に、その細胞を自殺させるのにp53遺伝子が関与していると言われています。p53遺伝子に突然変異が起こり、異常細胞の細胞死をさせることが出来なくなると、ガン細胞になり、増殖が行われると言われています。もしくは、正常細胞が、放射線や紫外線で損傷を受けると、p53遺伝子が働き、細胞分裂のG1期が長くなり、その間に修復するか、修復できないものは、次の段階でアポトーシスをおこさせて、殺すことが分かっています。もし、このp53遺伝子が働かないと、細胞分裂のG1期は通常の長さとなり、突然変異を起こしたまま細胞分裂へと進みます。

 尚、細胞分裂は、G1期(Gap phase)→S期(Synthesis phase)→G2期→M期(Mitosis phase) →G1期というサイクルで行われます。生物の授業で細胞分裂の像を観察しているのは、このM期の部分です。

 このp53遺伝子を遺伝子治療に使おうという計画も持ち上がっています。
 p53遺伝子がどのような条件で活性化するのかといったことは、次号で紹介します。



「第1回問題」正解

問1-生物時計(Biological clock)
問2-塩素(Chlorine)
問3-8820J
問4-量的遺伝(Quantiatative inheritance)




 
※「生物学辞典」八杉龍一ら/岩波書店 1996年

※「アポトーシスの科学」山田武・大山ハルミ/講談社 1994年


読者数 1000




トップページへ戻る