コムパルソリイ・サイエンスNo.23




「茶髪の子は茶髪?」  
 以前、小学生から「親が茶髪にしたら、生まれてくる子は茶髪なの?」と聞かれたことがありました。いい質問だと思いました。

 これは、獲得形質の遺伝あるいは、用不用説と言われる考え方で、「生物は環境に適応しようとするが、その結果が子孫に遺伝し、次第に環境に適応した形質をもつ生物が誕生するというものです。例えば、キリンは木の上の方の葉を食べようと努力するうちに、その性質が遺伝して、首が長くなったという考えです。遺伝学では、重要な説とされた時代がありましたが、現在では、否定されています。

 でも、調べてみると、小学生、中学生では、こんな風に思っている子は、かなりいます。高校生、大学生になると、10%未満になります。この考えだと、親が整形手術をしたりして、体に手を加えたら、生まれてくる子は、それに沿った子が生まれることになります。そんなことはありません。これを証明するために、昔の科学者は、ネズミの尻尾を何代も切って、尻尾の短いネズミが生まれないことを示したのだそうです。

 大学生と話していると、身長は、母親に似ると主張する子もいます。これは、獲得形質の遺伝の考え方ではありませんが、母性遺伝と言われる考え方です。特殊な場合は、これが当てはまりますが、No.6で述べたように身長の場合は当てはまりません。遺伝は、現象が強い印象があるために、少ない事例から一般化してしまう傾向もあります。No.22で述べたように、遺伝は、表現形質だけを見ていたのでは、原因を掴むことが出来ません。

 人の染色体は、常染色体と性染色体から構成されています。常染色体は、男性も女性も構成が同じで、46本もっています。しかし、性染色体は、女性がXX、男性がXYと構成が異なっていますし、Y染色体は小さい染色体で、男性を決める遺伝子ぐらいしか乗っていません。そのため、男性と女性で遺伝の仕方が違う場合があり、これも遺伝を誤解する原因だと思っています。X染色体に乗っている遺伝の例としては、色盲や血友病が有名です。X染色体が1本しかない男性に発病しやすい病気です。

 病気の原因が遺伝なのかどうか分からない時代は、感染症と誤解されて、隔離されたこともあったと思われます。これからもそんなことがないとも言えません。しっかりとした知識を身に付けたいものです。



 
※森本弘一「子供達の遺伝に対する認識」日本理科教育学会研究紀要;第37巻第1号,25-31,1996年

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