コムパルソリイ・サイエンスNo.20




「楽な歩き方」  
 車社会になって歩く機会がぐっと減りましたが、歩くのは、人間にとって基本的な行動です。老人も歩かなくなると、ぼけるとも言われます。歩き方を考えてみましょう。

 1880年代にEadweard Muybridgeが歩く様子を写真に撮って観察をしています。そのことから、人間は、歩いているときに身長が約40mm上下していることが分かりました。歩く様子を思い浮かべてみて下さい。まず、左足(右足)を出します。そして、右足(左足)を出します。左足を出した後に、右足を出す際に、両足が交差する瞬間があります。このときが、身長が高い状態です。そして、左足が地面に着いたとき、右足が地面に着いたときが身長が低い状態です。自分で歩いているとそれほど意識できませんが、夕方、疲れて帰っているときに、前を歩いている人の頭が上下して見えたことがありませんか。

 歩いているときに身長の差があるので、位置エネルギーと運動エネルギーの変換が行われていることになります。身長が高いときは、低いときに比べて、次のような位置エネルギーを持っています。

 位置エネルギー=質量(Mass)×重力加速度(Gravity)×高さ(Height)
50×9.8×0.004=1.96

 これが、運動エネルギー1/2mv2に変換されるのです。位置エネルギー→運動エネルギー→位置エネルギー→運動エネルギーとなるわけです。振り子と同じようなものです。実際、長さの異なる振り子を持って歩いてみると、一つだけの振り子が振動を始めるようになります。これは、歩く振動がその振り子の振動に近いことを示しています。

 だから、振り子をイメージして、リズミカルに歩くと疲れは少なくなると考えられます。

 また、早歩きをしようとすると、自然と走るようになった経験はありませんか。これは、早歩きより、軽く走った方がエネルギーの消費が少なくて済むからなのです。歩き方を別のモデルで考えると人間の歩行の理論的限界速度は、3m/s(秒速3メートル)だそうです。これは、競歩の状態です。如何に苦しく歩いていることか。あのように無理して歩くよりは、走った方が楽だということです。


 



 
※「生物と運動」R.マクニール.アレクサンダー著/東昭訳、日経サイエンス社 1992年

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