コムパルソリイ・サイエンスNo.12




「長生きの秘訣」  
 最近、太り気味で肉を食べるのを控えようと思っている中年の方々に朗報をお伝えしましょう。

 日本が世界一の長寿国であることには誰も異論がないところだと思いますが、皆さんは、その原因をどう考えているでしょうか。粗食が第一だと思っている人がいませんか。日本が第2次世界大戦後、急激に平均寿命を伸ばした原因は、経済の高度成長と学校給食であり、動物性タンパク質と植物性タンパク質の高いバランスにあるとのことです。




続き  

 第2次世界大戦前の日本の平均寿命は、男女とも50年に満たなかったのです。この原因は、乳幼児の感染死亡率と青年の肺結核死亡率の高さにあったことはもちろんですが、米飯、味噌汁、漬物という旧日本型食生活にもあったのです。

 戦後は、肉が食卓に並ぶようになり、牛乳、卵も積極的に取り入れるようになりました。しかも、米飯を維持し、魚も食べたのです。その結果、動物性タンパク質と植物性タンパク質の比率が5対5となり、理想的な新日本型食生活を実現したのです。この食生活は、感染症に強く、脳卒中を激減させることになったのです。

 動物性タンパク質と植物性タンパク質の比率と寿命の関係を見ると、東南アジアの開発途上国は、1対9であり、主な死因は感染症で平均寿命は、60年に達しません。また、新興工業国群(NIES)地域は、2対8であり、主な死因は脳卒中で平均寿命は70年に達しません。逆に、欧米の先進工業国群は、7対3であり、主な死因は心筋梗塞で平均寿命は70年に達しません。日本は、感染症を克服し、脳卒中を劇的に減らし、心筋梗塞を増やさずに、世界一の長寿国となったのです。

 日本の中で、都道府県別に長寿県と短命県の比較をすると、県民所得と平均寿命は相関関係があることが分かります。つまり、所得が高いほど、平均寿命は高くなる傾向があるのです。この例外は、大阪府と沖縄県です。大阪府は、所得の割に平均寿命が短く、沖縄県は、所得の割に平均寿命が長いのです。

 沖縄県の場合、古くから豚を中心とした肉食です。また、冬でも暖かいことから年中外で体を動かす仕事についている人が多いそうです。また、老人は、自立精神旺盛であり、家族に依存せず、老人相互の協力のもとに生活している場合が多いそうです。これらが長寿の原因なのでしょう。よく言われる海藻は短命の東北地区でも摂取されていることから主な要因であるとは思えません。

 そして、平均寿命が長い沖縄県から抽出された地区と平均寿命が短い秋田県から抽出された地区を比べると、長寿地域が軽度の肥満傾向を示しており、コレステロール値も高めです。当然、沖縄の地区では、老人も動物性、植物性のタンパク質が多く摂取しています。また、沖縄には、漬物の習慣がないので、食物摂取量が少ないとのことです。さらに、沖縄の老人は一人暮らしが多く、秋田の老人は、家族に囲まれて暮らしている場合が多いそうです。沖縄では、老人同士が互いに行き来し、健康を確かめあい、体調の悪い老人の家の家事を手伝うなど励ましあって暮らしているとのことです。  

 以上のことから、長寿の秘訣をつかめたでしょうか。ちなみに、現在死因の第一位を占めているガンの発生率は、戦前とそれほど変わりません。他の死因が克服されたので相対的に地位が上がってきたのです。これが克服されるのはいつのことになるのでしょうか。

 


 
※「老化と寿命」生物の科学遺伝別冊/裳華房1995




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