コムパルソリイ・サイエンスNo.11




「お出かけ前に その2」  
 太陽紫外線が皮膚ガンや白内障、肌のシミ、たるみ、の原因であること、また、その対処方法をNo.8「お出かけ前に」で述べました。今回は、紫外線に生物そのものがどう対処しているかを述べます。

 太陽紫外線の中のUVB(波長280nm〜320nm)が生物に照射されると、細胞の中の核に含まれるDNAに傷を生じます。この傷は、突然変異の原因となり、皮膚ガンなどを引き起こします。ですから、この傷が修復されないとたちまち病気となるのです。幸い、生物はこの傷を治す仕組みを持っています。




続き  

 この仕組みは、大きく暗回復と光回復に分けられます。
 暗回復は、その名が示す通り、暗い状態でこの傷を修復するものです。人間の皮膚の培養細胞の実験などから、太陽紫外線により生じた傷を暗回復により修復するには、ほぼ24時間かかることが示されています。ということは、日中、テニスをしたり、ゴルフをしたり、海水浴をしたりして日光をたっぷり浴びたら、次の日は、あまり外に出ないことが好ましいのです。統計からも、戸外の労働者と室内の労働者を比較すると、戸外の労働者に多く皮膚ガンが発生しています。前にも述べましたように、長時間出かける場合は、何らかの対処をしないといけないのです。

 光回復は、光によって太陽紫外線により生じた傷を回復するものです。光回復酵素というものがあります。この光回復酵素は、白色光、なかでも青色、紫色の光(400nm付近)によって活性化され、紫外線により生じたDNAの傷を治すのです。しかし、残念ながら、光回復酵素は、全ての生物が持っているのではありません。持っている生物が限られるのです。

 大腸菌、サルモネラ菌、酵母、ゾウリムシ、ミドリムシ、らんそう、ウニ、ショウジョウバエ、カイコガ、カニ、魚類、カエル、鳥類、タバコの葉、豆類、トウモロコシ、バナナ、カンガルー

 人は、光回復酵素を持っていないとされています。だから、あまり話題にならないのでしょう。光回復酵素の面白い点は、UVAによっても活性化されるということです。太陽光には、可視光線、紫外線UVA、UVBが含まれますから、光回復酵素を持っている生物は、太陽光により、傷を受けながら、同時に治されているということになります。しかし、光回復も暗回復も当然、限界がありますから、長時間太陽光を浴びれば、傷の修復が追いつかないことになります。

 暗回復の仕組みももっていないとどうなるのでしょう。太陽のもとに皮膚をさらすことはできません。この仕組みを持たない色素性乾皮症の患者さんは、戸外に出るためには、特別のヘルメットと帽子、長袖、長ズボンの着用が必要なのです。 くれぐれも無防備で長時間太陽光を浴びないよう気をつけましょう。

 

 


 
※「分子放射線生物学」近藤宗平著/学会出版センター1972




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