コムパルソリイ・サイエンスNo.10




「やっぱり怖い塩素ガス」  
 家庭用の洗剤を混ぜると塩素ガスが発生することは、だいぶん知られるようになったと思いますが、塩素ガスが関係した事故はなくならないようです。新聞記事を検索して次のような記事を見つけました。

「浦和の浄水場で塩素ガス漏れ 1人入院=埼玉」2000.04.22 読売新聞社
「塩素ガス発生、13人搬送 5人が入院、89人が避難−−北海道・旭川駅前のホテル」1999.04.04 毎日新聞社
「塩素ガス吸い重体の1人死亡−−楠本浄水場 /淡路」1998.06.16 毎日新聞社




続き  

 2件は、浄水場で使っている滅菌用の塩素ガスボンベ交換中に起きた事故のようです。1件は、ホテルの浴場の殺菌剤を間違って使用したものです。これは、旭川のホテルでおきた事故で、通常は、浴場の殺菌剤として、次亜塩素酸ナトリウムNaClOを使っていたのですが、係の人が間違って、地下水中和用の塩酸HClを混入したものと見られています。これは、下記のような反応を起こし、塩素ガスを発生させます。

NaClO + 2HCl → NaCl + H2O + Cl2(塩素ガス)

 家庭で事故が報告されたのも同じ原因です。家庭用の「塩素」系漂白剤は次亜塩素酸ナトリウムを含んでいます。またトイレ用の酸性洗剤には塩酸が含まれています。これらを混ぜると上記のような反応を起こし、塩素ガスを発生させるのです。

 塩素ガスは、元来、食塩水の電気分解によりできた副産物でした。有毒なので、捨てるのに困っていたのです。しかし、これが毒ガスとして使用されたのです。塩素ガスを発見したのは、スウェーデンのシューレ(1774)、イギリスのハンフリー・デービー(1810)、そして、毒ガスとして使用する作戦の指揮をとったのは、ドイツの化学者フリッツ・ハーバー(1915)です。新聞でも次のように紹介されています。

「1915年のきょう「ドイツ軍が初めて毒ガス使用」」1999.04.22 産経新聞

 塩素(Chlorine)は、ギリシャ語で緑色という意味だそうです。この戦争(第一次世界大戦)では英仏連合軍の塹壕に黄緑色の煙が立ち込め、たちまち兵士達は苦しみだしたそうです。始めの使用では、5000人の死者を数え、大戦全体としては、10万人の死者を出したそうです。これは、ドイツのみならず連合軍も使ったためです。

 塩素ガスは、中学校で行う塩酸の電気分解の時に発生しますから、においをかいだことがあるかもしれませんね。先ほどの記事にあるように、塩素は、消毒に使われていますが、取扱いを間違えると大変なことになるのです。しかし、身の回りには、今は使わなくなったものも含めて、DDT、フロン、塩化ビニルなど塩素を使った化学合成品がたくさんあります。人間がどう制御するかが問題なのです。

 

 


 
※「人間と化学とっておきの話」盛口襄・野曽原友行著/新生出版1998




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