コムパルソリイ・サイエンスNo.5




「私は、放射線を浴びていない?!」  
 原子力の施設に対しては、危険性を感じている人が多いと思います。そのため、勢い表題にあるように「私は放射線を浴びていない。浴びたくない。」と思っている人もいるかもしれません。しかし、これは誤解です。自然界には自然放射線と呼ばれる放射線があります。もちろん、人体そのものも放射線を微量ながら発しているのです。




続き  

 自然放射線による人体の被爆線量は、1年間におよそ2.4ミリシーベルト(mSV)であると言われています。その内訳は、宇宙からくる宇宙線が0.36mSV、空気中のラドンから1.3 mSV、大地から0.41 mSV、食物(主にカリウム40)から0.33 mSVだそうです。 カリウム40は、アルゴン40、カリシウム40に変わる過程でガンマ(γ)線やベータ(β)線を出します。β線は透過力が弱いので、体内で止まりますが、γ線は透過力が強いので、体外へ出て行きます。だから、満員電車の中では、微量ながらお互いγ線で被爆しているというわけです。

 ちなみに、β線は、透過力は弱いのですが、作用は強く、γ線は透過力は強いのですが、作用は弱いのです。また、よく名前を聞くラジウムやウランは、アルファ(α)線を出します。α線は、透過力が弱く、紙一枚でも止まりますが、その作用は強いのです。

 身の回りで放射線の量を調べてみると、場所によって違うことが分かります。石垣の下などは強いことがあります。これは、石垣に使われている花崗岩が放射性同位体を含んでいるからです。また、トイレの中では低いことがあります。これは、コンクリートからはそこに含まれている砂利や砂から放射線が出ているのですが、それをタイルなどが防いでいるからです。

 宇宙からくる宇宙線の線量は、高度により異なります。高い所ほど線量が高くなるのです。平地では、約0.3 mSVですが、富士山山頂では、0.7 mSVにもなります。さらに、国際線の飛行機上では、地上の約20倍の線量にもなります。飛行機の中は安全なようですが、宇宙線の中のγ線は透過力が強く、これを止めるには鉛板が必要です。しかし、飛行機の機体は、軽くする必要があるため、鉛などは使われていません。だから、飛行機内でも被爆しているのです。一番過酷なのは、スペースシャトルなどの宇宙船内です。ここでは、地上の約200倍の線量を浴びています。

 このように、地上は、放射線で溢れているので、むやみに恐れることはありませんが、どこが危険か、何が危険かを知っておくことは必要だと思います。目に見えないだけに不安ですが。 しかし、最近は、ホルミシスという概念も出てきています。少量の放射線は人体に好影響を及ぼすというものです。これは、自然放射線が高い地域ほど、長寿であるというデータに基づいています。これからの研究です。

 


 
※「やさしい放射線とアイソトープ」日本アイソトープ協会/丸善1996




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